
本ケーススタディは、小売電気事業をめぐる実際の裁判例をもとに、実務上の重要な論点を整理・解説するものです。
今回取り上げるのは、小売電気事業者が提起した託送料金認可処分の取消訴訟です(福岡高等裁判所令和7年2月26日判決)。
争点となったのは、送配電業務とは直接関係しない費用を「原価」として託送料金に含めることが許されるのか、という点でした。
本ケーススタディを通じて、託送料金制度の仕組みや、「電気事業に係る公益的課題」とは何かという問題について、理解を深めていただければ幸いです。
- 事例の概要
- 根拠法令
- 争点
- 裁判所の判断
- この判例が小売電気事業者に与える影響
- 実務上の注意点
- まとめ
1. 事例の概要
ある小売電気事業者が、一般送配電事業者(九州電力送配電)との接続供給契約に基づき電気供給を行っていました。
その後、経済産業大臣が託送料金の変更を認可しました。
問題となったのは、その託送料金の中に
- 原子力損害賠償に関する負担金
- 廃炉円滑化負担金
が含まれていたことです。
小売電気事業者は、
「送配電とは関係のない費用まで“原価”として託送料金に含めるのは違法ではないか」
として、認可処分の取消しを求めて提訴しました。
2. 根拠法令
根拠法令は、電気事業法18条3項1号、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則4条2項、電気事業法施行規則45条の21の2及び45条の21の5です。
電気事業法 ※令和2年法律第49号による改正前の電気事業法です。
(託送供給等約款)
第十八条
3 経済産業大臣は、第一項の認可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときは、同項の認可をしなければならない。
一 料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること。
一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則 ※令和3年経済産業省令第22号による改正前の一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則です。
(営業費の算定)
第四条
2 一般送配電事業者は、前項の規定により算定した合計額のほか、営業費として、使用済燃料再処理等既発電費(原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成二十八年法律第四十号)による改正前の原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律(平成十七年法律第四十八号)附則第三条第一項の規定により積み立てるべきこととされた金銭に係る利息に相当する額を除く。以下同じ。)、使用済燃料再処理等既発電費支払契約締結分、賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の額を算定しなければならない。
電気事業法施行規則 ※令和3年経済産業省令第24号による改正前の電気事業法施行規則です。
(賠償負担金の回収等)
第四十五条の二十一の二
一般送配電事業者(第四十五条の二十一の四第一項の通知を受けた一般送配電事業者に限る。次項において同じ。)は、当該通知に従い、賠償負担金(次条第一項に規定する賠償負担金をいう。)をその接続供給の相手方から回収しなければならない。
2 一般送配電事業者は、第四十五条の二十一の四第一項の通知に従い、各原子力発電事業者(次条第一項に規定する原子力発電事業者をいう。)ごとに賠償負担金相当金(第四十五条の二十一の四第一項第三号に規定する賠償負担金相当金をいう。)を払い渡さなければならない。
(廃炉円滑化負担金の回収等)
第四十五条の二十一の五
一般送配電事業者(第四十五条の二十一の七第一項の通知を受けた一般送配電事業者に限る。次項において同じ。)は、当該通知に従い、廃炉円滑化負担金(次条第一項に規定する廃炉円滑化負担金をいう。)をその接続供給の相手方から回収しなければならない。
2 一般送配電事業者は、第四十五条の二十一の七第一項の通知に従い、各特定原子力発電事業者(次条第一項に規定する特定原子力発電事業者をいう。)ごとに廃炉円滑化負担金相当金(第四十五条の二十一の七第一項第三号に規定する廃炉円滑化負担金相当金をいう。)を払い渡さなければならない。
3. 争点
主な争点は次のとおりです。
- 「適正な原価」とは何を指すのか
- 原発事故関連費用を全需要家に負担させてよいのか
- 一般送配電事業者に賠償負担金等の徴収義務及び払渡義務を課すことは法令上の根拠を欠くのではないか
4. 裁判所の判断
福岡高等裁判所は、次のように判断しました。
(1)「適正な原価」は送電費用に限定されない
裁判所は、「電気事業に係る公益的課題に要する費用」を託送料金で回収することは法の想定範囲内と判断しました。
つまり、単なる“送電コスト”だけでなく、
- エネルギー政策上の公益的課題
- 全需要家が公平に負担すべき費用
を含めることは許されるとしました。
(2)原発賠償費用の扱い
裁判所は、次のとおり判断しました。
- 需要家に賠償責任を負わせるものではない
- 全需要家が過去に原子力発電の恩恵を受けてきた
- 公平性の観点から全体負担は合理的
結果として、託送料金に賠償負担金等を含めることは適法とされました。
(3)賠償負担金等の回収スキーム
一般送配電事業者に回収・払渡義務を課すことについても、法が予定する回収スキームの実施手続に過ぎないとして違法性は否定されました。
5. この判例が小売電気事業者に与える影響
この判決は、小売電気事業者にとって非常に重要です。
- 託送料金の中身を争うハードルは高い
- 「原価」の範囲は広く解釈される可能性が高い
- エネルギー政策目的の費用も組み込まれ得る
つまり、託送料金は単なる“送電の対価”ではないということが明確になったといえます。
6. 実務上の注意点
小売電気事業者としては、次の点が重要になります。
- 託送料金改定のパブコメ段階での意見提出
- 原価算定規則の精査
- エネルギー政策動向の把握
後から取消訴訟で覆すことは、現実的には容易ではありません。
7. まとめ
本判決は、「託送料金=送電コストのみ」という理解は成り立たないことを示しました。
エネルギー政策上の公益的課題も、“全需要家の公平負担”という理論のもとに組み込まれる可能性がある。
小売電気事業者にとっては、法解釈・制度設計の理解が経営リスク管理そのものになる時代です。
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